平成23年5月10日(No5255) 言葉が透ける
言葉が透ける
菅直人首相が「浜岡原発の運転を中止する」と、めずらしくはっきりものを言った。良く聞いてみると命令ではなく、停めてほしいという要請のようだ。首相に法的な権限はないようだ。中部電力は要請に応えるかどうか、内部で激論を重ねたが結論を持ち越した。一国の首相の要請に一企業が直ちに応えられないのは、首相の言葉に軽さが透けて見えるからだ。
福島原発事故の大きさに仰天して、東海地震が予測される原発に運転中止を要請したのはそれなりに評価できる。しかし、国のエネルギー政策の根幹をなす要請なのに、政府でどれだけ熟議したかは定かではない。原子力委員会も知らず閣僚の多くや民主党の幹部もあっけに取られた。最終的には中部電力は受け入れると思うが、企業損失などは誰が補填する?
正しいことを言っても、言葉の裏に積み重ねの根拠がないと受け入れてもらえない。菅首相は国家や国民の安全を心から願って出した結論と信じたい。だが、マスコミの多くも国民も、いつものように内閣の延命対策や政局がらみだと受け取られても、平生往生で仕方がない。国のエネルギー政策を放りっぱなしのまま、思い付きで軽々しく扱われては堪らない。
中部電力はコストの掛かる火力発電の割合が高く、すべての原発を停止すると2500億円のコスト高になる。その費用はいずれ電気料金の値上げになって国民が負担する羽目になる。国の命令で中止すれば国が補填する責任がある。しかし、要請により自主判断したときは、業績の責任は自ら背負わねばならない。トップの発言は重い。菅首相はご存知か。